思いを学ぶ

掘建て小屋にたたきつけられる雨の音が、静かな部屋に響く。
じめじめとした空気・・・
機嫌を損ねる原因にもなりかねない環境・・・
自然がもたらす恵みの雨が、人を思いやる心を生み出す恵みとなるきっかけにもなるのだ。


いつものように、旅の途中に立ち寄ったポケモンセンターに、全員が同じ部屋で滞在している。
もう夜遅くで、あたりは真っ暗だ。
サトシはベッドに寄りかかって下を向いて黙り込んでいる。まだ眠ってはいない。
雨の音に、マサトやタケシの寝息もかき消されてしまう。
ハルカは窓の外を眺めてただ、立ちすくんでいた。

「はやく雨止まないかな」

ハルカの声が、雨の音に混じってじめじめと伝わってくる。

ハルカが窓を開けて、手を外に出し、雨の降り具合を窺ったそのときだった。
唖然とした瞬間・・・
それはもう遅かった。
ハルカは、窓を通して雨とともに、いや、雨より速いスピードで地面にたたきつけられた。
ここは5階の部屋・・・
サトシは数秒、全く動けずに何が起こったかわからず、汗を垂らして我に返った。

「・・・うそだろ・・・」

サトシはすぐに、窓から下を確認せずに、走り出した。
今のサトシには、一回までの階段がダイヤでできた壁が自分を阻んでいるかのように、とても邪魔に見えていた。

一階につくと、そこには鮮血を流し、雨に叩きつけられながら倒れているハルカの姿があった。

立ちすくむ暇も忘れてハルカの元へ向かうサトシだが、今のハルカは、雨が降る中のこのじめじめした環境に染まってしまいそうであった。

「ハルカ!!!」

叫んでも答えは、雨の音に遮られていなくても、初めから聞こえていないのだ。
そんな中でも、サトシの叫び声は、はっきりと聞こえていた。

サトシの頭には、いろいろなものが過ぎっていた。
そして今、サトシの思いも・・・ハルカの心を過ぎった。
そして・・・

「んっ・・・」

奇跡としか言えない・・・いや、奇跡が起きた。
人を思う事がどんなに凄いことなのだろうか、誰にもわからないだろう。
サトシは、泣くことしか考えられなかった。
ひたすら泣いて・・・雨と混ざった涙が、ハルカの体に潤いをもたらす。

その後、ジョーイさんの手によって、ハルカは一命を救われたのだった。
骨折で収まったハルカだが、それはサトシのおかげだという事を、ハルカはきずいていた。
サトシは、ゆっくりと、涙をこらえて一言

「心配したんだぞ!」

ハルカも涙をこらえていた・・・しかしこらえきれるわけがなかった。
ハルカはサトシにそっと「ありがとう」というと、ホッペにキスを交わす。
お互いをもっと知りたい、奇跡を呼んだあの雨は、まるで二人を見守ってくれたかのように立ち去っていった・・・
影から現われたのは、二人の未来を告げる輝きを見せる太陽だった。

紀元前に、儒教を開いた孔子は、このような言葉を残した。

「学びて時に之を習ふ、亦説ばしからずや。
 恋朋有り近方よりきたる、亦楽しからずや。
 人知らずして恨みず、亦君子ならずや。」

学んでしかるべきときに復習する、恋人が近くからずっと訪ねていてくれる、他人が自分を理解してくれなくても不満を抱かない心
それらには一つ一つ、いろいろな心がこめられている・・・。

 

最後の言葉の意味がとても深いですね。
言葉どおりの意味だけでなく、サトシとハルカに当てはめているのが良いアイデアだと思います。
小説部分も、サトシの思いがハルカに届き、事なきを得るという奇跡ともいえるほどのことを起こし、
人を思うことの凄さが良く分かります。

Commentator by 冬草


戻る