現実の告白なんてこんなもんでしょ♪

 トウカシティの学校は、もうすぐ卒業式を迎えようとしていた。楽しかった小学校での日々、先生たちの指導、友達との会話、それらに別れをつげ、新たな未来を歩む時が、もう、すぐ目の前にあった。この頃になると、生徒の内では―――特に女子は―――好きな人に告白をするようになっていた。とりわけ、何かしらの理由で、同じ中学校に入れない人は、迷わず告白をするのだった。同じ中学校に入ることが出来る場合でも、告白をしないことは少なかった。中学校からは、恋人として歩んでいきたいということだった。

 そして、ハルカもまた、告白を迫られているのだった。相手は隣クラスの、サトシ。実は二年も前から彼の事を想っていたのだが、なかなか想いを伝えることが出来なかった。
 告白をするならば、なるべく人がいない時が狙い時である。ハルカはこの二年間、あの手この手を使って、サトシと二人きりになるチャンスを作っていたのだが、見事に失敗に終わった。時にはサトシから話しかけてくることもあったが、ハルカはそのたびあがってしまって、結局好きだと言えずにいたのである。
 失敗の原因はハルカだけでなく、サトシによるところもあった。ハルカは時折、殆どサトシが好きと言ってるも同然な行動をとることがあったのだが、サトシにはその手は効かなかった。サトシはまるで気付かないのだ。彼が魅力を感じるのはポケモンのみで、恋愛に関しては思考外のようなものだった。五年生のころになると、もはや直球しか手段はないと、ハルカは結論を下していたのである。
 恋愛についての知識は豊富と呼ばれる彼女だが、ラブレターというやり方には頭が回らなかったようだ。

 もう、花が咲き始める季節になっている。告白をするのなら、今がピッタリの季節だった。ハルカは、このまま、想いを伝えずに終わるくらいなら、キザなシュウと付き合うほうがずっとましだと思った。
 同じクラスのシュウは、なかなかの美少年であったが、なぜかハルカにちょっかいをだすことがよくあった。ハルカと話す時だけ、紳士的な性格をぶん投げて、こ馬鹿にするセリフを連発する男だった。
 好きな子に意地悪したくなるという、男の異常思考をハルカは知っていたが、シュウの時は、それに気付くことはできなかった。


 ハルカはある日、屋上作戦にでることにした。放課後、サトシを屋上に呼んで、そこで告白をするという、ありがちな作戦だ。だが、サトシは大抵、約束を忘れない派なので、この作戦は成功率が高いと言えた。ハルカは、昼休みに隣のクラスに赴いた。教室に入る時、ちょうど入れ違いに、サトシの友人のトオイが、慌てて教室から逃げるように出て行った。一瞬しか見えなかったが、顔が真っ赤になっていたところ、告白でもしたのだろうとハルカは思った。教室の隅のほうで、栗色の髪の女の子が、顔を赤くして、床を見ていた。その時、ハルカはこれから告白のためのプロジェクトを実行しようとしていることに改めて気付き、また心がのぼせてしまいそうになった。ここに来る前に、スムーズに事を進められるよう、十分落ち着くために、深呼吸を、軽くニ十回はしたのだが、トオイのおかげで、それが無意味に帰してしまった。

 首の後ろで汗を感じつつ、ハルカは一呼吸すると、ゆっくりとサトシの席に向かった。サトシは幼馴染のシゲルとなにやら話をしていた。教室には四人の他に誰もいない。
 ハルカは、これはまずいと思った。サトシとシゲルは幼馴染だが、仲が良いのか悪いのか、よく喧嘩になることが多かった。今ここでそうなってしまっては、サトシの機嫌は悪くなり、とても作戦を実行に移すタイミングではなくなるのだ。
 ハルカは少し早く歩くようにし、なるべく早くサトシの席に着くようにした。幸い、サトシとシゲルの争いが始まるより早く、サトシにたどり着くことが出来た。

「サトシ、え〜っと…その〜…」
 ハルカは緊張してうまく言えない。

 (ただ屋上に呼ぶだけなんだから!まだ言うわけじゃないんだから!)
 ハルカは頭の中で必死に自分を落ち着かせながら、初めの言葉を探した。

「なんだよ、ハルカ。何か用か?」
 ハルカの様子に疑惑を感じ、サトシが訊いてきた。

 (ちょっと待って!今言葉を探してるんだから!)

 すると、シゲルが急にサトシの席から離れ、手をポケットにつっこんで、教室の外へと向かった。そして小声で、「うまくいくかな?」と呟いた。

「なんだ?シゲルのやつ、何処行くんだ?」
 不思議そうにシゲルが通り過ぎたドアの向こうを見ながら、サトシが言った。しかし、その時のハルカには、それはどうでもよかった。今、自分は正真正銘、サトシと二人っきりにいるのだ。教室には、いわゆる「観客」はいないし、栗色の髪の子も、自分達を見ていない。この思いがけない状況に、ハルカの頭はぐるんと揺れ、心臓が高く鳴り響いた。ハルカは完全に作戦の事を忘れて、半分意識を失くした状態で、サトシに言った。

「サトシ!私…サトシが好き!」

 言った。遂に言ってのけた。この二年間、ずっと言いたかった言葉…。今、ようやくこの想いを伝えることが出来た。ハルカの心臓は破裂しそうなくらい鳴っていた。体中の汗が、一滴一滴正確に感じ取れた。口はぴくぴくと震えていた。ハルカはじっとサトシを見つめたまま、返事を待っていた。サトシは暫く驚いた表情をしていたが、やがて彼は口を開き、ハルカを見つめ返しながら、言葉を発した。


 その後、サトシが何を言ったかはよく覚えていない。でも、私ははっきりと言える。
 私は今、幸せを掴んでいる。

 

学校での告白って、確かにこんな感じかもしれませんね。
ハルカの気持ちがすごく良く分かります。
告白する前ってこんなにドキドキするんですよねぇ。
その後の様子もちゃんと描かれていて、素敵な小説です。

Commentator by 冬草


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