泣いて・・・ 泣いて・・・ 泣きやんだら・・・

この話は俺とハルカの10年後の出来事

ある晴れた日の午後、ここはマサラタウンの俺の家。
今日はママやピカチュウは朝から出かけている。
つまり、家に居るのは俺と家事手伝いのバリヤードだけ。
用事も無いから音楽を聴こうとしたその時・・・。
「ピンポ〜ン! ピンポン、ピンポン!!」
「ったく!! 誰だよ一体!!」

 忙しくなるチャイムの音にどなりながら、俺はドアを開けた。
ガチャッ
「うるせー!! 誰・・・」
ドアを開けたところにいたのは、近くに住んでいて
共に旅をした仲間"ハルカ"だった。
「ハ、ハルカ?」
俺の家に来ることは珍しくないのに、
俺を驚かしたものがあった。それはハルカの涙だった。
一瞬俺の頭の中はパニックになった。
「(な、なんでハルカが泣きながら俺の家に来るんだ?)」
そんな俺の気持ちをよそに、
ハルカはそのままズカズカと家の中に入ってきた。
「お、おい、ちょっとハルカ!」
慌ててハルカを追いながら、俺も家の中へと戻った。
ハルカは慣れたもので居間に行くと、
テーブルのイスに座り、コンビニ袋をガサゴソとする。

   そして袋から出したのは、ワイン。
「1本、2本・・・4本って、おい!
お前、確かアルコールだめなんじゃ・・・」
そこまで言って、俺はそれ以上言えなくなった。
「別に良いでしょ!私だって飲みたい時があるの!!」
キツク俺を睨みつけながら反論するハルカ。
その迫力に押されたっていえばその通りなんだけど、
それ以上にハルカが傷ついているのがわかったから。
俺は息を大きく吐いて
「なにかツマミいるか?」

 そして返事も聞かずに冷蔵庫を開け、チーズを取り出した。
「えーっと他には・・・、ううーんハムぐらいしかないか。」
「チーズとハムでいいか?」
けれどハルカの返事はない。
まあ、返事をしてくれる期待はしてなかったけどな。
俺は冷蔵庫を閉じ、ハムとチーズを皿に並べ、
グラスを2つ持ってテーブルに戻った。
その間もハルカはしゃべらない。
いつもは明るく、落ち込むとか、泣くとかとには程遠い。
それだけに今日は何があったのか、気になった。
「ハルカ、今日はどうしたんだ?お前らしくないぜ、
でも・・・無理に話さなくていいからさ」
ワインをグラスに注ぎながら、俺は言う。
「泣くのは、ガマンすんなよな」
「・・・・・・うん」
小さく呟いたハルカの前に、グラスを置いた。

 「ほら、飲めよ」
ハルカは無言のまま、ただ頷き、涙を零しながらワインを飲んだ。
「お、おい」
グビグビッと、まるで水を飲むようにして、ハルカはワインを飲む。
「タン!」一気に飲み干すと、ハルカはグラスを勢い良く
テーブルの上に置いた。目はグラスだけを見続ける。
仕方なく俺は空になったグラスに、ワインを注ぐ。
再びハルカは、グラスを傾ける。
「!!・・・ゴホ! ゴホゴホ!!」
飲み慣れないアルコールのせいか、ハルカは咳き込んだ。
俺は背中を擦りながら
「ほら、落ち着いて飲めよ」
「・・・・・・」
「ん? 何?」
背中を擦るために近づいた俺の耳元で、ハルカは何かを呟いた。
なんて言ったのか、聞き取ることは出来なかった。
もう一度聞き返しても、ハルカは何も言わない。
「は!?」
けれど何も言わない代わりに、俺の肩に額を押し付けた。
時折、しゃくりあげる感じがする。
俺はハルカの頭の上に手を乗せ、そのまま髪を撫でた。
最初はビクリと体を振るわせたけど、
ハルカはそのままじっとし、泣き続けた。

 いつもとは違うハルカに、少しドキリとする。
「(・・・なんだ、この鼓動は?
ハルカと居るといつもこんな感情だ)」
俺はもしかしたら、ハルカが好きなのかもしれない。
好きといってもどの程度なのか判らない。
それに、ハルカは俺の事をどう
思っているのだろう・・・それも気になる。
ただ、こんな風に弱いところをみせらると、
気持ちがグラリとくる。
ハルカの頭を撫でる手に、
強い力を入れたくなる。
俺はそんな自分の気持ちを抑えつけるように、
そしてちょっとでも笑って欲しくて
「ほら、そんなに泣くと、目が溶けんぞ!」
わざと明るく、おちょけるようにしてそう言った。
クスリと笑う声が、俺の耳元に聞こえた。
「笑ってんじゃね〜よ」
俺はそう言って、ハルカの頭を"ペシリ"と叩いた。
「痛!」
大げさにそう言うハルカ。
俺は笑って
「ほら、今度はゆっくり飲めよ」
そう言って、俺はハルカの隣に座った。
いつもよりも、速く脈打つ俺の鼓動。・・・バレてないよな?
俺は、今更ながらハルカとの距離に緊張してしまっていたんだ。
「何がおかしいの?」
思わず笑ってしまった俺に、ハルカは尋ねる。
「ん? 別になんでもないよ」
俺の答えに、訝しげな顔をする。
けどふっと何かを思い出したのか、
目線を下げ、下唇を強く噛む。

「・・・なあハルカ、無理に聞く気はないけどさ、
話したくて来たんじゃないのか?」
俺の言葉に、コクリと頷く。
「あのね」
「ん?」
俺は自分のグラスにもワインを注いで、
飲みながらハルカの話を聞く。
「負けちゃった・・・。」
わざと明るく言う。
「負け・・・た?嘘だろ!?」
「・・・うん」
ハルカはグランドフェスティバルで優勝して
以来、滅多に負けた事がなかった。
負けたとしても僅差での状態で、
完敗は一度もなかった。
けど・・・、あいつが言うには
1匹も倒せずに負けてしまったと・・・。
「誰に・・・?」
ハルカはそう言って、ため息を吐いた。
「わたしより、5つも年上の人。
コンビネーションがとても良かった」
「え? 相手はお前の事を知っているのか?」
「うん、」
「・・・・・・」
言葉が出なかった。何も言えない俺に
「終わった後、私は相手に冷やかされた・・・」
そう言って、ハルカは黙り込んだ。
少しの沈黙。
俺はハルカのグラスにワインを注いで
「ふうーっ・・・よしハルカ、今日は一緒に飲もうぜ!
そして泣け! 泣いて、泣いて・・・」
俺が全ての言葉を言い切る前に、
ハルカは俺の胸に飛び込んできて、再び泣き出した。
「うぅ・・・やっぱり悔しい・・・」
それから1時間ぐらいして、ハルカは少しウトウトし出していた。
「ハルカ? 寝るなよ」
「う・・・んん・・・サトシ、ありがとう・・・」
そう答えるハルカの声は・・・・・・こりゃ寝るな。
けど泣くだけ泣いたハルカの顔は、
今日最初に見た顔よりは少し安らいでいた。

泣いて、泣いて、泣きやんだら。
そうだな、どこかおいしいものでも、食べに行こうか。
おいしいものを食べて、少しでも元気が出たらいいな。
それに、笑ってくれたら、尚更いいな。
ハルカの笑顔、好きだから・・・さ。

こんなこと言っちまったら、まるで恋の告白みたいだな。
でも、まあそれでもいいか。
それさえも笑いになるかもしれないし、
真剣に受け止めてくれるかも知れない。
言ってみるだけ言ってみるか。
けど、俺の言葉をどうとるかはハルカ次第だから。
ハルカの都合のいいように、
とってくれれば、それでいいさ。

だから、泣いて、泣いて、泣きやんだら・・・。

そう、泣きやんだら・・・。


 

突然のハルカの訪問、そして理由も話せずただ泣くだけのハルカ。
そんなハルカを、サトシが優しさで包む、暖かいお話です。
ハルカの強い感情、サトシの包容力と、文章の綺麗な形が見事にマッチしてますね。
大人になった二人の姿、しっかりと感じられます。

Commentator by 冬草


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