「優勝はサトシ選手です」
『ワアアアアアア』
「やったぜピカチュウ、遂に優勝したんだ俺達」
「ピカ」
「おめでとうサトシ」
「遂に優勝だな」
「ま、パパに勝ったんだから当然でしょ」
「サンキューみんな」
「それだけの実力があれば、もう俺達がいなくてもいいよな」
「え?」
「私達、もうお別れね」
「な、何言ってんだよ、俺はまだ」
「じゃあ僕達もう行くから」
「待ってくれよみんな、行かないでくれよ」
「バイバイサトシ」
「戻ってきてくれよみんな、ハルカ、ハルカー!」

「ハルカー!」
そう叫び、サトシは飛び起きた。
「ハァハァ、な、何だ夢か」
ここはミナモシティのポケモンセンター、
「にしても最近、あの夢ばっかり見るなぁ」
自分の事なのにサッパリ分からない。
必死に考えていると、ドアが開いて、タケシとマサトと寝ぼけたままのハルカが入って来た。
「あれ、サトシが早起きしてる」
「悪いかよ、早起きしちゃ」
いつもと変わらない会話、ならば何故、自分はあんな夢を見たのだろう。
(考えても仕方ないか)
そう思い、あまり深くは考えない事にした。
「どうしたのサトシ、汗だくだよ」
「え、ああ、何でもないよ」
「こんなに汗かいて何でもないって、ちょっと嘘っぽいかも」
そう言いながら、ハルカはハンカチを取り出してサトシの汗を拭き始めた。
「いいって、汗くらい自分で拭くから」
「ちょっと、動かないでよ」
サトシは顔を真っ赤にしてハルカに言ったが、ハルカはやめようとしなかった。
仕方なくサトシは、言われるがままにじっとする。
(何だか今日のハルカ、積極的じゃないか?)
いつもより積極的なハルカに戸惑いを覚えながらも、心のどこかでは嬉しくもあった。
ハルカが積極的になったのには訳があった。

それは、時間をさかのぼる事約8時間前、
真夜中にハルカは、サトシの夢に似た夢を見ていた。
「サトシ、優勝おめでとう」
「ありがとうハルカ」
「サトシ、おめでとう」
「サトシはこれからどうするの?」
「次の地方に行くつもりさ」
「俺はニビジムに戻るつもりさ」
「だから、みんなとはここでお別れだ」
「二人とも、元気でね」
「じゃあな」
「嫌、行かないでよサトシ、サトシー!」

(あんな事に、なって欲しくないよ)
ハルカの目から、涙が零れた。
「ど、どうしたんだよハルカ」
その事に気付いたサトシが聞いた。
「え?な、何でもない」
ハルカは慌てて流れる涙を拭った。
「ちょっと目にゴミが入っただけ」
「どれどれ、ちょっと見せてみろよ」
そう言ってサトシは、ハルカの顔を覗き込んだ。
「!?」
二人はそのまま固まってしまった。
ハルカが顔を上げたせいで、二人は危うくキスしてしまいそうになった。
「わわ、ゴメン」
サトシは慌てて顔を離した。
ハルカは、ボッと顔を赤くして俯いた。
「と、とりあえず、朝ごはん、食べに行こう」
「・・・うん」
ハルカは俯いたまま頷いた。

「あ、タケシ、何で先に来てるんだよ」
食堂で、食事を終えた直後の二人を見つけて、サトシは叫んだ。
「いや〜、二人があんまりラブラブだったんで邪魔するのもどうかと思って」
『な!』
二人の顔が同時に赤くなる。
「それじゃあ、お邪魔虫はこれで」
マサトがそう言い残し、タケシと共に走り去って行った。
「とりあえず、何か食べよう」
「う、うん」
その後、会話という会話がなく、お互いが顔を合わせては赤面し、俯いていた。
そんな事が続く中、時間だけが刻一刻と過ぎ去っていった。
そして、船の出港の時間
「さぁ、これからは長い船旅になるぞ〜」
「海のポケモン見られるかなぁ」
『・・・・・・』
「さーて、船に乗る前にジャンケンをしてもらう」
「ジャンケン?何でだよ」
サトシの問いに、タケシはニヤニヤしながら言った。
「この船は二人部屋なんだ、一番早いのがこれだったのと、予算の都合でこれしか無理だったんだ」
「でも何でジャンケンなんだ?」
「この方法が一番公平だからだ」
「しょうがねえ、恨みっこなしって事か」
「それじゃあ行くぞ、最初はグー、ジャンケン」

(で、やっぱりこうなっちゃう訳ね)
結局、サトシとハルカ、タケシとマサトで決まった。
(あんな事があった後だから話し辛い)
一方ハルカは、
(どうしよう、あんな事があった後だから恥ずかしいよ)
今は昼、寝るには早すぎる時間なので寝ることも出来ない。
しかも、タケシの話だと1週間ハルカと相部屋だと言うのだ。
(てことは約1週間、ハルカと二人っきりって事か?)
そう考えると、つい顔が赤くなる。
「どうしたのサトシ、顔真っ赤だよ」
「え?あ、いや」
ハルカが近づいてきて、慌てて距離をとり、俯いてから小さな声で呟いた。
「朝の事、思い出しちゃって」
それを聞いたハルカも、顔が真っ赤になる。
「それに、約1週間二人っきりだと思うとつい」
「あれ?そういえばピカチュウは?」
「ピカチュウは俺達に気を使ってタケシたちの所に行った」
その後、また二人は黙ってしまった。
「お、俺ちょっと外の空気吸ってくる」
なんだかい辛いので、外に行こうと思い、ハルカにそう告げ、外に飛び出していった。
「あ〜疲れた」
甲板で仰向けに寝転がり、そう呟いた。
キャモメが鳴いていて、凄くのんびり出来た。
(ハルカは俺の事どう思ってるのかな)
無意識にそんな事を思っていた。
それにしても、いつからだろう、こんなにハルカを意識し始めたのは、
自分でも気付かない内に、自分はハルカを好きになっていた。
初めに会った時はいつもと変わらなかった。
けど一緒に旅をしているとその内好きという感情が生まれていた。
カイナシティのポケモンコンテストで、初めてハルカが悔し涙を流した時、
もうハルカの目に涙を流させたくないと思った。
何でそう思ったのかは自分でもその時はよくは分かっていなかったが、今ならハッキリといえる。
「あの時から、なんだろうなぁ、俺がハルカが」
「私がなんなのよサトシ」
「てうわあ!」
いきなり目の前にハルカが現れて、サトシは驚いて飛び起きた。
「ハ、ハルカ、ビックリさせないでくれよ」
「ねえサトシ、さっきの何言おうとしてたの?」
何故か不機嫌そうな顔でハルカは聞いた。
「ハルカ、お前ちょっと機嫌悪くないか?」
「話をそらさないで」
怒鳴るようにして言いながら、グイッと顔を近づけたので、
ハルカの声がサトシの耳の中で響いた。
「私なんなのって聞いてるの、答えて」
サ「何でそんなにムキになってんだよハルカ」
耳の中で響くので、耳を手で覆いながらサトシは言った。
その言葉を聞いたハルカは、俯いた。
「ゴメン、ちょっと、ムキになりすぎたかも」
「お、おいどうしたんだよハルカ」
ハルカは答えず、立ち上がり部屋へと戻っていった。
サトシはもう少し、そこにいることにした。
ハ「最近私、変だよね」
ハルカは部屋で独り言を言っていた。
ずっとサトシと一緒にいたい。そんな気持を持っている今、あの夢はハルカにはダメージが大きかった。
いつか分かれるかも知れない。そう考えただけで、何だかもの凄く悲しくなった。
(サトシと別れるなんて出来ないよ)
ハルカは涙を流し、その涙をただひたすら拭い続けた。
夕食の時間に、サトシは戻ってきた。
夕食の時、大した会話も無く、サトシは黙々と食事を食べ、食べ終わるとまた甲板へと出た。
「駄目だ〜」
そう言って甲板へと倒れこんだ。
「どうしても駄目だ〜」
「何が駄目なんだ?サトシ」
「タケシ」

「どうしたんだサトシ、柄にも無く悩んでるじゃないか」
「柄にも無くは余計だ。実は、ハルカの事なんだけど」
「何だサトシ、告白でもするのか?」
「な、何でそうなるんだよ!」
サトシはつい大声を出した。
「ははは、スマンスマン」
「全く、そういう事をサラリと言わないでくれよ」
「で、実際はハルカの何で悩んでるんだ?」
「タケシも気付いてるんだろ、ハルカがいつもと違うことくらい」
「ああ」
「何でなのかなぁって思ってさ」
「本人に直接聞いたらどうだ?」
「聞けないから困ってるんじゃないか」
「なんなら俺が変わりに聞いてやろうか?」
「いい、どうせ余計な事まで言うだろうから」
「はは、ばれてたか。ま、長い船旅だ、時間をかけて聞けばいいさ」
そう言ってタケシは戻って行った。
「俺もそろそろ戻るか」
そう呟き、サトシはハルカの待つ部屋へと戻っていった。
部屋に入ると、ハルカは床で眠っていた。
「何でこんな所で寝てるんだよ、まいっか」
サトシはハルカを抱き上げて、ハルカのベットに寝かせてやった。
サトシは、ハルカの寝顔を見て顔を赤くした。
(か、可愛い)
「て俺は何考えてんだ」
サトシは独り言を呟き、自分のベットに入ろうとしたその時、
「うわあ!」
突然ハルカが自分の服を引っ張った。
当然サトシは、ハルカの方へと倒れこむ。
サトシは、ギリギリ、ハルカの横に倒れる形で、ハルカの上に倒れるのは免れた。
「な、なんなんだよ一体」
ハルカに向かってそう言ったが、ハルカは眠ったままだった。
「サトシ」
寝言でハルカがそう呟いた。
「何で、俺の名前を言ってるんだ?」
「サトシ、行かないでよサトシ」
「おいどうしたハルカ、俺はここにいるぞ」
サトシは咄嗟にそう叫んだ。するとハルカが目を覚ました。
すぐ隣には、サトシがいた。
「キャー!」

バチーン

どこか清清しい音がした。
「な、な、何やってるのよサトシ」
「お前なぁ、人の服引っ張ってそれは無いだろ」
「あ」
その時ハルカは、サトシの服をしっかりと掴んでいる事に気付いた。
「ゴ、ゴメン、サトシ」
ハルカは慌てて謝った。
「それはいいんだけどさ、一体何の夢見てたわけ?」
サトシは、ハルカにビンタされた場所をさすりながら聞いた。
サトシの頬には、キレイにハルカの手形がついていた。
「え、そ、それは」
何だか言いづらそうにしていると、それを察したのか、サトシが言った。
「まぁ、無理に言えとは言わないけどさ」
サトシは笑いながら続けた。
「もうビンタはコリゴリだけどな」
それを聞いたハルカが、また申し訳なさそうな顔をした。
「じゃあ俺寝るから、お休み」
サトシが寝てからも、ハルカは起きていた。
眠くない訳ではない。ただ、あの夢が一体何なのか考えていた。
(私がいつかサトシと別れるって事を予言してるのかなぁ)
そう考えると、胸が痛くなった。
(やだよそんなの、ずっとサトシの隣にいたいよ)
ハルカは、溢れ出てくる涙を、止める事が出来なかった。
ハルカは泣きながら眠りに落ちた。そしてその直後、サトシが
うなされながら「ハルカー!」と叫んでいた。
〜翌朝〜
「ん、あれ?私、寝ちゃってたの?」
「うわああああ!」
その時、サトシが大声を出して飛び起きた。
「ハァハァ」
「サトシ、どうしたの?」
「あ、ハルカ、おはよう」
サトシは、昨日と同じくらい汗を流していた。
「サトシ汗だく」
「あ、ホントだ」
するとハルカは昨日と同じように汗を拭く。
サトシは仕方なくじっとしている。
「おーいサトシ、ハルカ、朝だぞー」
そう言ってタケシが部屋に入ってきた。
そして、昨日と同じ光景を見た。
「おっと、お邪魔だったか」
「おいタケシ、それどういう意味だ」
「さてどういう意味だろうね〜」
そう言ってタケシは部屋へ戻って行った。
「なにしに来たんだろうタケシ」
「さあ、それよりサトシ」
「ん?何?」
「ここ、まだ痛い?」
ハルカは、昨日自分がぶった場所に手を触れた。
「ああ、もう大丈夫さ」
「ゴメンね、昨日はビックリしてつい」
「いいんだよ、気にすんなって」
「でも」
「ホントに大丈夫だからさ、気にすんなよ、な」
「うん」
「だからもう、そんな顔しないでくれよ」
その後、声を小さくして続けた。
「大切な人のそんな顔は、見たくないから」
「え?何か言った?」
「い、いや、何でもない」
ハルカに聞こえないように言ったつもりだったが、
どうやら聞こえたらしい。サトシは慌ててごまかした。
「とりあえず、飯食おうぜ、腹減った」
「うん」
そしてハルカは、サトシの手を取った。
「ハ、ハルカ!?」
「じゃあ、行こっか」
ハルカが笑い、サトシがハルカの手を握り返す。
(サトシって、ごまかすのヘタクソかも)

朝食を食べてすぐ、サトシは甲板へと向かった。
「あ〜あ、暇だぁ」
とにかく暇だ。何もする事が思い浮かばない。
「この船電話あったっけな」
サトシは呟き、タケシに聞こうと思い、歩き出した。

「自分の部屋にある電話使えよ」
「それじゃあ駄目なんだよ」
「何が駄目なんだ?」
「何だっていいだろ」
「とにかく、この船は自分の部屋にしかないぞ」
「しょーがねーな」
サトシが立ち上がり、部屋を出ようとした時、タケシがサトシを呼び止めた。
「あ、そうだ、サトシ」
「なんだよ」
「部屋に戻るんだったらハルカ呼んで来てくれないか」
「ああ、分かった」
そう答えて、サトシは部屋を出た。

「ハルカー、いるかー?」
「あ、サトシ、どうしたの?」
「タケシが呼んでるぞ」
「タケシが、分かった」
ハルカが部屋を出て、部屋にいるのは自分だけになった。
「さてと、ハルカが戻ってくる前にちゃっちゃと終わらせてしまいますか」
そう言ってサトシは、電話のダイヤルを回し始めた。

「タケシー、入るわよ」
「ハルカ、来たか」
「私に何か用?」
「ああ、ちょっと聞きたいことがあるんだが」
「何?」
「サトシの事、どう思ってる?」
その事を聞かれた時、咄嗟にハルカは辺りを見回した。
「大丈夫だよ、今はマサトもピカチュウもいないから」
「何で、そんな事聞くの?」
「んー、なんとなく、かな」
「サトシは、一緒にいると楽しいし、退屈しないって思う」
「でもそれは、旅の仲間として、だろ」
「うん」
「なら、一人の男の子として見ると?」
「その答えを言う前に一つ約束してくれる?」
「ああいいよ」
「サトシはもちろん、誰にもこの事は言わないでね」
「分かった」
ハルカはタケシの返事を聞いて安心したのか、さっきよりも明るい口調で語り始めた。
「サトシの事は好きだよ、一人の男の子として見ても、たまに何でこんな奴好きになったのか
分からなくなるけど、サトシの事が好きって気持は変わらない」
「そうか」
「話はお終い?」
「ああ」
「じゃあ私戻るけど、絶対に誰にも言わないでね」
「分かってるよ」
ハルカが部屋に戻り、しばらくしてマサトが戻ってきた。
「ねえタケシ、ピカチュウが」
そこでマサトの言葉は一度途切れた。
タケシが何故かニヤニヤしている。
「ど、どうしたのタケシ」
「ピカピカ?」
「いや、この後起こる展開を予想したら顔がにやけてしまううんだよな」
「変なタケシ」

「あ、もしもしママ?」
「あらサトシ、元気にやってる?」
「ああ、まあね」
サトシは、悩みがあり、そのせいで少し元気が無かったが、サトシはあえてそれを隠した。
しかし、流石はハナコと言った所だろう。元気がないのに気付いた。
「何か、悩み事でもあるの?」
「え?何で分かったの?」
「何に悩んでるの?言ってみなさい」
「実は俺、変な夢を見るんだ」
「夢?」
「ああ、みんながいなくなる夢、みんなが俺の前からいなくなるんだ、タケシもマサトも、そして、ハルカも」
サトシがハルカの名前を出した時、他の二人とは違う顔をしたのを、ハナコは見逃さなかった。
「サトシ、その夢で、何か気付いた事、あるでしょ」
「え?何にもないけど」
「じゃあ何でハルカちゃんの名前を出した時、他の二人よりと違う顔だったのかな?」
「やっぱり、分かるんだね、でも、夢では何も得てないのは確かだよ。だって」
恥ずかしそうな顔をして、サトシは続けた。
「ハルカの事が好きになったのは、もっと前だから」
周りがとても静かになる。
その時、誰かが歩いてくる音がした。
「やべ、ハルカが戻ってきた」
「サトシ、頑張んなさいよ」
ハナコはそう言い残し、電話を切った。
「何を頑張るんだよ」
そう呟いた時、ドアが開いて、ハルカが入ってきた。
「あれ?何してるのサトシ」
「いや、久々に家に電話しようと思って」
「ふ〜ん、じゃあ私も家に電話しとこう」
「あ、俺その辺ふらついてくる」
そしてサトシはまた、甲板へと向かった。
ハルカは何も言わず、家のダイヤルを回した。
「はいもしもし」
「あ、ママ?」
「あらハルカ、珍しいわね、家に電話してくるなんて」
「もう、それどういう意味よ」
「で、何か用事で電話してきたの?」
「うん、ちょっと、ママに相談に乗って欲しいの」
「何か、悩み事でもあるの?」 
「うん、最近、変な夢を見るんだ」
「どんな夢を見るの?」
「うん、あのね」

サトシは甲板で、何かをずっと考えていた。
「う〜ん、こうでもないああでもない」
何を考えているのか分からない悩み方である。
「ここでこうしたら、けどなぁ、う〜ん」
そんなサトシは置いといて
「という夢を、見るの」
「何だか本当に変な夢ね」
「そんなにハッキリ言わないでよ、まぁ、その通りなんだけどね」
「でもその夢、現実に起こるとは限らないじゃない」
「でも怖いの、サトシが、私と一緒にいてくれなくなると思うと」
「ハルカは本当にサトシ君が好きなのね」
「うん、好きで好きでたまらないの、だから、いなくならないで欲しいよ」
ハルカの目から涙がこぼれる。
「もしサトシが、私の事を旅の仲間としてしか見ていなかったら、そう思うと胸が痛くなるの、
自分勝手かもしれない、だけど私は、サトシの事が、好きだから」
「じゃあ、自分の気持をしっかりと伝えなさい。そうすればきっと、サトシ君は受け止めてくれるわ」
「うん」
「それじゃあ、頑張るのよハルカ」
そう言ってミツコは電話を切った。
「泣いてばかりじゃ何も始まらないよね」
ハルカは自分に言い聞かせ、涙を拭って、サトシを探しに部屋を出た。

その頃サトシは、
「この時にこうしたら、いや、でもそれじゃあな」
相変わらず何を考えてるか分からなかった。
「あ、サトシみーつけた」
「あ、ハルカ」
後ろを向いたらそこにはハルカがいた。
「何してたの?」
「ちょっと考え事」
「え〜、サトシが〜」
「何だよその言い方」
「隣、いい?」
「え?ああ、いいぜ」
ハルカが隣に座り、二人の顔が何故か赤くなる。
『あ、あのさ』
二人が同時に口を開いた。
「は、ハルカ、さきどうぞ」
「サトシこそさきどうぞ」
「じゃあ、俺の話、聞いてくれるか?」
「うん」
ハルカの答えをきき、サトシは静かな口調で語り始めた。
「俺さ、夢を見たんだ、自分にとって一番嫌な夢」
「どんな夢を見たの?」
「俺が、ポケモンリーグを優勝したんだ。それは俺にとって最高の瞬間だったんだ。だけど、
その後みんなが、俺の傍からいなくなるんだ」
「え?」
「俺は、みんながいなくなるのが悲しかったんだ。特にハルカ、お前がいなくなるのが、俺には耐えられなかった」
「え?それって」
「その時に改めて気付いたんだ。俺は、ハルカの事が好きだって事に」
言い終わった後、サトシの顔が真っ赤になった。
「私も同じ夢見てた」
「え?」
「私も、サトシがいなくなることは我慢できないよ、私も、サトシが好きだから」
サトシは、ギクシャクしながらも、ハルカの肩に手を回した。
ハルカも、サトシに甘えるようにして、肩に頭を乗せた。
「ねえサトシ」
「な、何だ?」
「キス、しちゃってもいいかな」
「あ、ああ」
そして二人は、真昼間という事も忘れて、キスを交わした。
その瞬間
「二人とも、何やってんだ?」
タケシの声がして、二人は慌てて離れたが、手遅れなのは言うまでもない。
「お姉ちゃんとサトシ、顔真っ赤」
マサトにも見られていた。
「それにしても、タケシの言う面白い事がこんな事だとは思わなかったよ」
「ちょ、タケシ、マサトに言ったの?」
「い〜や、俺はただ、もうすぐ面白い事があるぞって言っただけだ」
「とにかく、お姉ちゃんがこんな趣味があったなんてね〜」
マサトはジローリとサトシを見た。
「お前な〜、それどういう意味だ!」
こうして、二人の夢がきっかけとなり、二人の恋は実った。
こうして、二人の愛を実感したサトシ達の旅は、まだまだ続く。


 

旅の後、離れ離れになってしまう夢をみる二人。
好きになってしまった人とそうなるのが嫌で頑なになってしまうけど、
それがきっかけで二人は結ばれることになります。
ずっと一緒にいられたらいいですね。
Commentator by 冬草


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