Neighbor ―ずっと、傍にいて―

ホウエンでの旅も終わりに近づいていた頃。
街から離れた海辺。
一行は砂浜にキャンプを張っていた。

この旅ももうすぐ終わる―――

ハルカは一人眠れないでいた。
心に引っ掛かっている思いを振り払うようにテントから外に飛び出す。

静かな夜。澄み切った空に星が輝く。
海岸に座り込み、遠く海を見つめる。

ハルカは今までのことを思い出していた。

ポケモンと接することが苦手だった自分。
それでもただ旅に出ることだけが楽しみでトレーナーになろうとしていた事。
それで良かったのだろうか?

彼に出会えたから・・・
ポケモンに対する真摯な思い、そして信頼される関係に憧れて。
大きな夢を持ち、真直ぐに向かっていく気持ちを傍で感じて。
そんな彼と一緒に旅を続けてきたからこそ、自分も・・・
ポケモンたちと仲良くなり、仲間を信頼し合い・・・
一人では見つけられなかった、目標ができたのかもしれない。

それに・・・彼と一緒にいられることが何よりも楽しかった。
こんな時間がずっと続けばどんなにいいだろう。

 
(でも・・・)
彼女にも今は夢がある。
しかしそれは・・・彼とは違う道。
(いつかは離ればなれになっちゃうのかな・・・)

自分の夢は叶えたい。けど・・・それ以上に彼の存在は、ハルカの中では大きくなっていた。

(嫌だよ、そんなの・・・)

揺れ動く心。
苦しく、切ない想い。

こんな気持ち・・・
どうすればいいの・・・

 

 

「ハルカ?」
「えっ!?」
びっくりして振り返る。
「サトシ・・・」
「どうしたんだよ、こんなとこで」
「べっ・・・別に・・・サトシこそ・・・」
「なんか目が覚めちゃってさ・・・」

少しの沈黙。

ハルカがサトシに言い掛ける。

「ねぇ・・・サトシ」
「ん?」
「ここでの旅が終わったらどうするの?」
「そうだな・・・また違う地方を旅するつもりだよ。
新しいポケモンゲットして仲良くなって、どんどんバトルして・・・そこでのジム戦やリーグに挑戦してやるんだ」
「ほんとにポケモンが好きなのね」
「あぁ。それにこうやって色んなとこ冒険できるのも楽しいし、友達やライバルもいっぱいできるしな」
「そうだね」

「ハルカは・・・」
一瞬、言葉が詰まる。
「どうするんだ?」
「・・・」
「コンテストの事・・・」

サトシも分かっていた。自分達が目指す目的は違う。
別れなければならないかもしれない。
でもそれが辛い・・・どうして・・・
彼はまだ自分自身の気持ちに気付けなかった。

「私は・・・」

その先の言葉がなかなか出ない。
(こんなこと・・・私の勝手だよね・・・)

黙り込んでしまう二人。

(いつまでも・・・こんなままじゃ駄目だよ・・・)

それでも自分の想いは伝えたい。

ハルカは立ち上がった。

迷いたくない・・・例え受け入れられなくても・・・

 
決心したハルカが口を開く。

「サトシ、私・・・」

胸の鼓動が早くなる。

「あなたと・・・ずっと一緒に居たいの」

「え・・・っ」
サトシも少し驚いたようではあった。

「ごめんね、私の我侭で。サトシにも私と違う夢があるんだから・・・」

「私と一緒じゃいけないかもしれない・・・でも・・・」

「あなたのことが好きなの!」

堰を切ったように一気に言い切る。
ハルカの目には涙が浮かんでいた。

(どんな答えでもいい・・・)

「ハルカ・・・俺は・・・」

彼もその言葉の意味は理解していたんだろう。

 
「!?」

サトシはハルカを抱きしめていた。

「ちょ、ちょっと・・・」

「ハルカがいいんなら・・・」

「・・・」

「これからも一緒に旅をしてくれるか?」

「俺、まだ好きとかそういうことは分からない・・・

でも・・・俺もお前と離れたくないんだ」

「俺の方こそ迷惑かもしれないけどさ・・・」

 
不器用な彼ができる精一杯のこと。

いや、それで充分だった。

彼も私と同じ気持ち・・・

それを感じ取れるだけで良かった・・・

「サトシ・・・」

目を閉じ、サトシにもたれかかる。
それ以上の言葉はいらなかった。

こうしていられるだけで・・・

(ずっと・・・私の隣に居てね。大好きだよ・・・サトシ)
ハルカは心の中で何度もそう繰り返していた。


 

調子に乗って二作目を。
ホウエンでのラストがどんな風になるだろうと妄想ですw
二人にとっては夢って大きなものだと思うんですよ。
でもそれを越えて結ばれて欲しいです。

後、こっちのタイトルはとある曲名から借りたものだったり。
by 冬草


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